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福岡地方裁判所 昭和34年(ワ)765号 判決

原告 梅崎芳高 ほか一九名

被告 国 ほか一名

代理人 有本恒夫 野田猛 ほか九名

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事  実〈省略〉

理由

第一  争いのない事実等

一  請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  権利失効の主張について

被告らの主張1(三)(1)及び(2)の事実は、当事者間に争いがない。しかし、権利失効の原則は、本来自由であるべき権利の行使に致命的制限を加えるものであるから、裁判を受ける権利のように、特に憲法によつて保障されている権利についてのその具体的適用は、極めて慎重を要するものというべきである。免職処分とその無効主張の間の経過期間が長期にわたる場合にも、労働組合法二七条二項のように無効の主張を期間的に制限する特別の立法措置が講ぜられている場合は別として、そうでない場合にたやすく右規定を類推して無効の主張に期間的制約を課することは相当でない。また、原告らは退職金等を受領しているものの、本件弁論の全趣旨によれば、原告らは、右金員受領によつて本件各免職処分に対する不服意思を放棄したものではないことがうかがえるから、右金員受領の事実をもつて、本訴による原告らの免職処分無効の主張が許されないと解するのも相当でない。

以上のとおり、被告らの主張する事実は、信義則の一適用である「権利失効の原則」が本件に適用されるべきことを首肯させるものではなく、右事実を総合しても同様である。したがつて、被告らの権利失効の原則の主張は採用できない。

第二  定員法による免職処分について(原告西村、同横山を除くその余の原告らの関係。以下本項で単に「原告ら」という場合には原告西村、同横山を除くその余の原告らを指す。)

一  公職選挙立候補による地位の喪失

原告下河、同稲富、同尾崎が、被告らの主張2記載の各公職選挙に立候補したことは、当事者間に争いがない。したがつて、仮に右原告ら三名に対する本件各免職処分が無効であつたとしても、同原告らは、公職選挙法八九条一項一ないし五号所定の公務員ではないから、右立候補により同法九〇条に基づき郵政省の職員たる身分を喪失したものというべく、国の職員としての地位を有することの確認を求める右原告らの本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。

二  定員法の合憲性

定員法附則五項が、同法に基づく行政整理について、国公法八九条ないし九二条に定める「職員の意に反する不利益な処分に関する審査請求権」の適用を排除し、また、同附則九項が、当時の公共企業体労働関係法八条二項及び一九条に定める「団体交渉権及び苦情処理共同調整会議の調整を受ける権利」の適用を排除していることは、原告ら主張のとおりであるが(但し、右附則九項は、日本専売公社及び日本国有鉄道職員に関するもので、本件原告らに適用されるものではない。)、被整理者に定員法に基づく免職処分の当否について裁判所に出訴する途がとざされていたわけではないから、右審査請求権等が奪われているからといつて、定員法が憲法に違反するものとはいえない。

三  定員法による整理の一般的効力及び整理の方針等

1  定員法に基づく過員の整理に当つては、その整理基準につき格別の定めがなされていないから、誰を免職処分にするかは任免権者の自由裁量に委ねられているものと解される。もつとも、任免権者の自由裁量事項であつても、裁量権の濫用がある場合には違法処分としての瑕疵を帯びることとなる。しかし、行政処分は、たとえ違法であつても、その瑕疵が重大かつ明白で当該処分を当然無効ならしめるものと認めるべき場合を除いては、適法に取り消されない限り完全にその効力を有するものと解すべきであるから(最高裁判所昭和二六年(オ)第八九八号昭和三〇年一二月二六日判決・民集九巻一四号二〇七〇頁参照)、原告らに対しなされた本件各免職処分が当然無効といい得るためには、右各処分に重大で、かつ、外形上客観的に明白な瑕疵があると認められる場合でなければならない。

2  <証拠略>によれば、次の事実が認められ、これに反する証拠はない。

政府は、昭和二四年六月三〇日、「今回の行政整理が、国の財政上の均衡を確立し、国民負担の軽減を図るために行われるものであり、公務員及び国民の理解と協力を求める」旨の声明を発した。そして、電気、通信両省においては、同年八月一一日「整理の方針について」と題する声明書が発表され、その中で、「その意に反して職を去つてもらわねばならない被整理者の選択については、今回の整理目的に鑑み、勤務振りの優秀な職員やその他通信事業再建上余人をもつて代え難いような職員は残つてもらわなければならないので、単に年令とかいうことのみを基準とするわけにはいかない。公務員としての資質、次いで事業の再建上必要とされる職員の技能、知識、肉体的諸条件、特に通信事業の業務に対する協力の程度というような公共事業職員としての必須要件を判定して、優位の人を残し、比較的下位の人を整理するという点に最大の根拠を求めた。特に重要なのは、事業に対する協力の程度であつて、たとえ能力、知識の程度が高くても、通信事業の正常な運営を阻害する行為に出たり、自ら行わなくてもこれを共謀したり、そそのかしたり、あおつたりして同様な結果を招くと認められるような者は、この要件に欠ける。そして、その具体的認定の方法は、地方にあつては各郵政局長及び電気通信局長の認定に一任されているが、方法としては過去の事実や業務担当者等の一般観察によることが考えられる。しかし、多数局所の中には情況により職員中に前述した方法によつては優劣をつけ難い場合も予想されるので、この場合においては、勤続年数短く勤務成績良好でない者をも整理の対象とした。」との整理方針が明らかにされた。そして、郵政、電気通信両省の人員整理は、右基本的整理方針に従つて行われた。

ところで、原告らは、本件整理に際し、過剰整理が行われた旨主張するが、<証拠略>によれば、電気通信省においては、行政整理が終わつた昭和二四年一〇月一日の時点において、その職員の数が定員法によつて定められた新定員(一四万三七三三人)を割るに至らなかつたことが認められ、これに反する証拠はない。一方、郵政省においては、前記<証拠略>によれば、同年八月一二日及び同年九月中旬の二回にわたり行政整理が実施されたが、行政整理が終わつた昭和二四年一〇月一日の時点において、その職員数は定員法に定められた新定員(二六万〇六五五人)を三六二七人下回る結果となつたことが認められる。しかし、同証拠によれば、右定員割れの結果を生じたのは、昭和二四年九月末になつて比較的多数の希望退職者が発令されたことによるものであり、郵政省当局においても、行政整理の結果が集計された同年一一月ころになつてはじめて右定員割れの事実を知つたものであることがうかがえる。右事情に照らして考えると、行政整理の結果、右のような過剰整理の事態が生じたからといつて、郵政省関係の原告らに対する本件各免職処分に重大かつ明白な違法があつたものということはできない。

四  原告らに対する本件各免職処分の個別的効力

1  まず、原告らに前記整理方針に該当する事実があつたかどうかについて検討する。

(一) 原告梅崎芳高関係

(1) 被告らの主張3(三)(1)(イ)の事実について

被告ら主張の事実のうち、原告梅崎が昭和二一年一二月若津郵便局から福岡中央電信局に転勤し、同局通信課第二部において音響通信の仕事に従事していたことは、当事者間に争いがない。そして、若津局には単信通信の施設しかなかつたため、同原告が二重通信、自動通信、印刷通信等の高等通信に習熟していなかつたことは、同原告自ら自認するところである。さらに、<証拠略>によれば、当時高等通信の技術は、講習所卒業後現場で訓練を受けて修得していたが、同原告は、福岡中央電信局で行われていた技術研修にほとんど参加せず、そのため右高等通信の技術を修得することができなかつたことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(2) 同(ロ)の事実について

<証拠略>によれば、原告梅崎は、福岡中央電信局に勤務していた昭和二二年四月ころから同年六月ころまでの間、組合活動のため勤務時間中しばしば無断で離席していたことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(3) 同(ハ)の事実について

<証拠略>によれば、昭和二三年九月ころ政令二〇一号反対闘争が行われた際、福岡中央電信局においても職場離脱者があつたことが認められるが、しかし、原告梅崎が右職場離脱を煽動したことを認めるに足りる証拠はない。かえつて、<証拠略>によれば、右当時原告梅崎は、全逓九州地方連合会書記長(専従)として熊本市に常駐し、福岡中央電信局における右職場離脱には関与しなかつたことがうかがえる。

(4) 同(二)の事実について

<証拠略>によれば、政令二〇一号の施行に伴つて、所属長の許可のない組合専従者は、昭和二三年一〇月一五日までに職場に復帰しなければならなかつたにもかかわらず、原告梅崎は、所属長の許可を得ないまま同年一二月まで、全逓九州地方連合会書記長として組合事務に専従していたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(5) 同(ホ)の事実について

<証拠略>によれば、原告梅崎は、昭和二四年一月から本件免職時に至るまで、無許可で全九州地方労働組合会議書記長に就任して組合事務に専従していたことが認められる。右認定に反する<証拠略>は前記証拠に照らしたやすく信用できず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

(二) 原告原勝明関係

(1) 被告らの主張3(三)(2)(イ)の事実について

原告原が昭和二二年ころ福岡中央電信局に勤務し、全逓福岡中電支部副支部長の地位にあつたことは、当事者間に争いがない。そして、証人中園善助の証言によれば、原告原は、そのころ組合活動のため勤務時間中しばしば無断で離席していたことが認められ、これに反する証拠はない。

(2) 同(ロ)の事実について

<証拠略>によれば、昭和二三年九月ころ政令二〇一号反対闘争が行われた際、原告原は、福岡中央電信局職員に対し職場離脱を煽動し、一〇数名の同局職員が職場離脱したことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(三) 原告立花高光関係

(1) 被告らの主張3(三)(3)(イ)の事実について

原告立花が福岡中央電信局通信課に勤務し、昭和二二、三年ころ全逓福岡中電支部青年部次長あるいは情宣部長の地位にあつたことは、当事者間に争いがない。そして、<証拠略>によれば、原告立花は、そのころ組合活動のため勤務時間中しばしば無断で離席していたことが認められる。右認定に反する原告立花本人尋問の結果は前記証拠に照らしたやすく信用できず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

(2) 同(ロ)の事実について

原告立花が福岡中央電信局内において、「アカハタ」を配布販売したことは、当事者間に争いがないが、しかし、右配布販売が勤務時間中に行われていたことを認めるに足りる証拠はない。かえつて、<証拠略>によれば、右配布販売は、休憩時間中に購読者たる職員が自ら原告立花の所まで足を運び「アカハタ」を持つて行くという方法により行われていたことがうかがえる。

(3) 同(ハ)の事実について

前記<証拠略>によれば、昭和二三年九月ころ政令二〇一号反対闘争が行われた際、原告立花は、福岡中央電信局職員に対し職場離脱を煽動し、一〇数名の同局職員が職場離脱したことが認められる。右認定に反する<証拠略>は前記証拠に照らしたやすく信用できず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

(四) 原告石井俊郎関係

(1) 被告らの主張3(三)(4)(イ)の事実について

原告石井が福岡統制電話中継所に電気通信技官として勤務していたことは、当事者間に争いがない。そして、<証拠略>によれば、原告立花は、組合活動のため勤務時間中無断で離席することが多かつたことが認められ、これに反する証拠はない。

(2) 同(ロ)の事実について

昭和二四年七月ころ原告石井が全逓福岡統制電話中継所支部副支部長の地位にあつたことは、当事者間に争いがない。そして、<証拠略>によれば、原告石井は、昭和二四年七月半ばころから本件免職処分がなされるまでの間、一人で、あるいは他の組合員とともに、勤務時間中無断で頻繁に所長室に押しかけ、一、二時間にわたり酒井強所長に対し、行政整理で同中継所から犠牲者を出さないよう要求し、同所長の業務を阻害したことが認められる。右認定に反する<証拠略>は前記証拠に照らしたやすく信用できず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

(3) 同(ハ)の事実について

<証拠略>によれば、原告石井は、前記副支部長に在任中、前記支部執行部役員の一員として、同支部で開催される職場大会を主宰していたが、同大会は勤務時間に食い込むことも度々であつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(五) 原告光吉(旧姓池田)さわ子関係

(1) 被告らの主張3(三)(5)(イ)の事実について

昭和二三年八月以降原告光吉が行橋郵便局において交換部長として勤務し、部下を指導監督する任にあつたことは、当事者間に争いがない。そして、<証拠略>によれば、原告光吉は、組合活動のため勤務時間中無断で離席することが多かつたことが認められる。右認定に反する<証拠略>は前記証拠に照らしたやすく信用できず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

(2) 同(ロ)の事実について

前記<証拠略>によれば、本件行政整理直前に原告光吉が、外数名の女子職員とともに勤務時間中矢野電信電話課長の部屋を訪れ、約一〇分間ほど行政整理をしないよう要求したことが認められるが、しかし、被告ら主張のように、原告光吉がしばしば矢野課長のもとに押しかけその業務を妨害したことを認めるに足りる証拠はない。

(3) 同(ハ)の事実について

<証拠略>によれば、局内におけるビラ等の無断配布は禁じられていたにもかかわらず、原告光吉は、無断で勤務時間中局内において、組合のビラを配布したり、「アカハタ」の配布、販売をしていたことが認められる。右認定に反する<証拠略>は前記証拠に照らしたやすく信用できず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

(4) 同(二)の事実について

<証拠略>によれば、業務用の電信電話を所定の料金を負担しないで組合用務に使用することは禁じられていたにもかかわらず、原告光吉は、組合用務の連絡のため無料で電話を使用していたことが認められる。<証拠略>のうち右認定に反する部分は前記証拠に照らしたやすく信用できず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

(六) 原告早田広美関係

(1) 被告らの主張3(三)(6)(イ)の事実について

原告早田が門司郵便局に勤務し、昭和二二年一月終りころ全逓門司郵便局支部青年行動隊長の地位にあつたことは、当事者間に争いがない。そして、<証拠略>によれば、原告早田は、昭和二二年一月終りころ原告井上とともに、浴場管理と称して、局内の風呂に入つた職員から入浴料として五〇銭宛徴収し、組合の闘争資金に充当したことが認められ、これに反する証拠はない。

(2) 同(ロ)の事実について

<証拠略>によれば、原告早田は、昭和二二年一二月一〇日原告井上とともに、外国郵便課事務室内において勤務時間内に開催された職場大会を主宰し、右両名自らも演説したことが認められ、これに反する証拠はない。

(3) 同(ハ)の事実について

<証拠略>によれば、前記(一)(4)で判示のとおり、所属長の許可のない組合専従者は、昭和二三年一〇月一五日までに職場に復帰しなければならなかつたにもかかわらず、原告早田は、所属長の許可がないのに本件免職処分に至るまで、全逓門司郵便局支部副支部長として組合事務に専従していたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(4) 同(二)の事実について

前記<証拠略>によれば、次の事実が認められ、これに反する証拠はない。

昭和二四年三月五日に、門司電信局が門司郵便局電信課から独立昇格したことを祝つてその披露祝賀式が開催されることになつたが、原告早田は、同月二日午前九時三〇分ころから同一一時ころまでの間、外数名とともに同電信局長室に押しかけ、永江豊次郎局長に対し、経費の無駄遣いであるなどと主張して右祝賀式を中止するよう要求した。また、同原告は、同月四日午後四時ころ、組合員及び市民代表と称する者等四、五〇名とともに同局長室に押しかけ、午後六時ころまで同局長に対し、右祝賀式を中止するよう要求した。さらに、同月五日の祝賀式当日、同原告は、門司電話局前広場において、組合員及び部外者五、六〇名を集めて集会を開催し、拡声機を使用して祝賀式の行われていた同局庁舎に向けて「祝賀式をやめろ。」等と叫んでこれを妨害したうえ、祝賀式終了後の同日正午過ぎ集会参加者五、六〇名とともに同局に押しかけ、祝賀式参列のため来合わせていた熊本逓信局羽藤電務部長に対し面会を強要し、多勢で同電務部長及び永江門司電信局長を取り囲んで悪口雑言を浴びせた。

(5) 同(ホ)の事実について

前記<証拠略>によれば、原告早田は、局舎内におけるビラ、ポスター等の無断掲示は禁じられていたにもかかわらず、昭和二二年終りころ数回にわたり許可を受けずに局舎内にビラ、ポスターを貼付したことが認められ、これに反する証拠はない。

(七) 原告井上亀一郎関係

(1) 被告らの主張3(三)(7)(イ)の事実について

原告井上が門司郵便局に勤務し、昭和二二年一月ころ全逓門司郵便局支部副支部長の地位にあつたことは、当事者間に争いがない。そして、前記<証拠略>によれば、原告井上は、昭和二二年一月終りころ組合員を指揮して、小包の取扱数量を、取扱数量の少なかつた終戦後の一日平均を超えて取り扱わないよう制限したことが認められ、これに反する証拠はない。

(2) 同(ロ)の事実について

前記(六)(1)で認定のとおり。

(3) 同(ハ)の事実について

前記(六)(2)で認定のとおり。

(4) 同(二)の事実について

前記<証拠略>によれば、原告井上は、昭和二三年三月ころ、反税闘争として門司郵便局長に対し、所得税の源泉徴収を中止するよう要求したことが認められ、これに反する証拠はない。

(5) 同(ホ)の事実について

前記<証拠略>によれば、前記(一)(4)で判示のとおり、所属長の許可のない組合専従者は、昭和二三年一〇月一五日までに職場に復帰しなければならなかつたにもかかわらず、昭和二四年五月九日正式に組合専従が許可されるまで、所属長の許可を受けずに全逓門司郵便局支部長及び全逓福岡地区本部副委員長として組合事務に専従していたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(八) 原告竹中春吉関係

(1) 被告らの主張3(三)(8)(イ)の事実について

原告竹中が戸畑郵便局に勤務し、全逓戸畑郵便局支部長の地位にあつたことは、当事者間に争いがない。そして、<証拠略>によれば、原告竹中は、右支部長の地位にあつた昭和二二、三年ころ、数回にわたり勤務時間中無断で組合員四、五〇名を率いて同局長室に押しかけ、額賀厳局長に対し、所得税の源泉徴収の中止、買出し休暇の付与及び保険・貯金の募集の件等につき交渉を要求したことが認められる。右認定に反する<証拠略>は前記証拠に照らしたやすく信用できず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

(2) 同(ロ)の事実について

<証拠略>によれば、原告竹中は、昭和二二、三年ころ、右局長、その他の管理者を同局内の集配現業室に呼び出し、組合員四、五〇名とともに集団交渉を行い、激しい口調で吊し上げたことが認められる。<証拠略>のうち右認定に反する部分は前記証拠に照らしたやすく信用できず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

(九) 原告古賀格関係

(1) 被告らの主張3(三)(9)(イ)の事実について

原告古賀が久留米郵便局に勤務し、全逓久留米郵便局支部長の地位にあつたことは、当事者間に争いがない。そして、<証拠略>によれば、昭和二三年九月ころ政令二〇一号反対闘争が行われた際、原告古賀は、久留米郵便局職員に対し職場離脱を煽動し、天野与一外七名の同局職員が職場離脱したことが認められ、これに反する証拠はない。

(2) 同(ロ)の事実について

<証拠略>によれば、局舎内におけるビラ、ポスター等の無断配布、掲示は禁止されていたにもかかわらず、原告古賀は、昭和二三、四年ころしばしば許可を受けずに、自ら若しくは他の組合員らに命じて組合及び共産党関係のビラを局舎内に貼付及び配布していたことが認められ、これに反する証拠はない。

(3) 同(ハ)の事実について

<証拠略>によれば、原告古賀は、昭和二四年五月ころ、当時局内出入りを禁じられていた前記天野与一を、当局の警告を無視して一〇数日間局内に入れて組合事務に従事させたことが認められ、これに反する証拠はない。

(一〇) 原告中村忠関係

(1) 被告らの主張3(三)(10)(イ)の事実について

原告中村(当時の同原告の姓は井本)が唐津郵便局に勤務し、全逓唐津郵便局支部副支部長の地位にあつたことは、当事者間に争いがない。そして、<証拠略>によれば、原告中村は、組合活動のため勤務時間中しばしば無断で離席していたことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(2) 同(ロ)の事実について

<証拠略>によれば、原告中村は、昭和二四年八月一二日の第一次行政整理の際、唐津電報電話局の被整理者約八名の辞令を預かつて、同局業務部長橋本昇に返上したことが認められる。右認定に反する<証拠略>は前記証拠に照らしたやすく信用できず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

(一一) 原告小柳毅関係

(1) 被告らの主張3(三)(11)(イ)の事実について

原告小柳が佐賀郵便局に勤務していたことは、当事者間に争いがない。そして、<証拠略>によれば、原告小柳は、昭和二二、三年ころ全逓佐賀県地区協議会々長の地位にあつたが(昭和二三年八月以降は組合組織の改組により全逓佐賀地区本部委員長に就任)、昭和二三年六月ころ、佐賀県内の郵便局職員を対象とする文化講習会が開催された際、講師に対し講習会は中止された旨の虚偽の連絡をし、組合員たる職員に対し出席しないよう指令するなどして、右講習会の開催を妨害したことが認められる。<証拠略>のうち右認定に反する部分は前記証拠に照らしたやすく信用できず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

(2) 同(ロ)の事実について

<証拠略>によれば、原告小柳は、昭和二三年九月ころ政令二〇一号反対闘争が行われた際、佐賀郵便局職員に対し職場離脱を煽動し、約一〇名の同局職員が職場離脱したこと、また、その際、同局管理課長最所一雄に対し、「芦田バンパン内閣のもとでは郵政事業に従事するのを潔としない」旨記載された右職場離脱者の欠勤届をとり集めて提出したことが認められる。右認定に反する<証拠略>は前記証拠に照らしたやすく信用できず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

(3) 同(ハ)の事実について

前記<証拠略>によれば、昭和二三年ころ佐賀郵便局内において切手不売運動が行われていたことがうかがえるが、しかし、原告小柳が右運動に関与していたことを認めるに足りる証拠はない。

(一二) 原告樋渡幹次郎関係

(1) 被告らの主張3(三)(12)(イ)の事実について

原告樋渡が武雄郵便局に勤務していたことは、当事者間に争いがない。そして、<証拠略>によれば、原告樋渡は、痔病の手術のためとの名目で昭和二三年九月四日から同月一三日までの休暇をとりながら、その間全く療養せず、組合活動や政治活動に従事していたことが認められる。原告樋渡本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は前記証拠に照らしたやすく信用できず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

(2) 同(ロ)の事実について

原告樋渡が全逓武雄支部書記長の地位にあつたことは、当事者間に争いがない。そして、<証拠略>によれば、原告樋渡は、昭和二四年ころ、局長との交渉を要求して、勤務時間中しばしば無断で組合員二、三〇名を伴つて局長室に押しかけていたことが認められる。原告樋渡本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は前記証拠に照らしたやすく信用できず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

(一三) 原告本村恒雄関係

(1) 被告らの主張3(三)(13)(イ)の事実について

原告本村が小城郵便局に勤務していたこと、及び結核のため昭和二一年一〇月一日から昭和二二年一月一三日まで病気休養したことは、当事者間に争いがない。そして、<証拠略>によれば、右のほか原告本村は、病弱のため欠勤が多かつたことが認められ、これに反する証拠はない。

(2) 同(ロ)の事実について

<証拠略>によれば、原告本村は、同局で電信の仕事に従事していたが、電信用の機械の操作に不慣れのためもあつて、電信の技能が劣つていたことが認められ、これに反する証拠はない。

(3) 同(ハ)の事実について

<証拠略>によれば、原告本村は、昭和二三年ころ、組合のオルグとして他の局に赴き、局員に対し保険の募集をしないよう煽動していたことが認められ、これに反する証拠はない。

(一四) 原告鬼橋健次関係

(1) 被告らの主張3(三)(14)(イ)の事実について

原告鬼橋が鹿島郵便局に勤務していたことは、当事者間に争いがない。そして、<証拠略>によれば、原告鬼橋は、昭和二三年九月九日、「門司の叔父が病気のため行かねばならない」と偽つて一週間の休暇をとり、肥前白石町へ行つていたことが認められ、これに反する証拠はない。

(2) 同(ロ)の事実について

<証拠略>によれば、原告鬼橋は、昭和二四年七月一二日、「左右鼻内良性腫瘍手術のため当分の間出勤できない」と称して休暇をとりながら、全く療養せず、業務用赤塗自転車に乗つて社会運動に従事していたことが認められ、これに反する証拠はない。

(3) 同(ハ)の事実について

<証拠略>によれば、原告鬼橋は、遅刻や勤務時間中の無断離席が多かつたことが認められ、これに反する証拠はない。

(4) 同(ニ)の事実について

<証拠略>によれば、原告鬼橋は、保険係でないものが保険募集の業務に従事することに反対し、自らも保険の募集をせず、また、同局の他の職員に対しても右業務に従事しないよう煽動したことが認められ、これに反する証拠はない。

(一五) 原告松尾俊博関係

(1) 被告らの主張3(三)(15)(イ)の事実について

原告松尾が唐津郵便局において貯金窓口受払係として勤務していたこと、及び昭和二三年一〇月二八日業務上保管中の公金五万円を同僚の吉村益雄に貸与したことは、当事者間に争いがない。そして、<証拠略>によれば、原告松尾は、右行為により減給処分を受けたことが認められ、これに反する証拠はない。

(2) 同(ロ)の事実について

<証拠略>によれば、原告松尾は、昭和二四年ころ、勤務時間中局舎内で、「アカハタ」を配布したことが認められる。右認定に反する<証拠略>は前記証拠に照らし信用できず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

以上判示の事実によれば、被告らが原告らを整理の対象とした理由として主張する事実のうち一部認められない部分があることを考慮しても、なお原告らにはいずれも一応前記整理方針に沿う事由があつたものといえる。

2  原告らは、原告らに対する本件各免職処分は、職場から共産党員やその同調者を排除することを目的として、あるいは、原告らが正当な組合活動をしていたことを理由としてなされたものである旨主張する。そして、<証拠略>によると、原告らが平素活発に組合活動に従事していたこと、及び原告らのうち一部の者は共産党活動に従事していたことがうかがえる。しかし、前記1に認定した事実のうち組合活動に関する部分は、いずれも正当な組合活動の範囲を逸脱したものであり、本件全証拠によるも、原告らに対する本件各免職処分が、右原告ら主張のような共産党員及びその同調者であること及び正当な組合活動をしたことを主要な理由としてなされたことを認めるに足りる証拠はない。また、仮に原告らに対する本件各免職処分の真意が、共産党員及びその同調者を排除すること、あるいは、正当な組合活動をしたことに対する不利益な処遇をすることにあつたとしても、前記1に認定のように原告らには一応整理方針に該当する客観的事実があつたと認められる以上、本件各免職処分に重大かつ明白な瑕疵があつたということはできない。したがつて、原告らの本訴請求は理由がない。

第三  国公法による免職処分について(原告西村、同横山の関係。以下本項で単に「原告ら」という場合には右原告両名を指す。)

一  <証拠略>によれば、次の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

連合国最高指令官マツカーサー元帥は、昭和二五年五月三日付声明並びに内閣総理大臣吉田茂宛の同年六月六日付、同月七日付、同月二六日付及び同年七月一八日付各書簡により、公共的報道機関及びその他の重要産業から共産党員またはその支持者を排除すべきことを指示した(最高裁判所昭和二九年(ク)第二二三号昭和三五年四月一八日大法廷決定・民集一四巻六号九〇五頁)。政府は右指示を実施するため、昭和二五年九月五日の閣議において「〈1〉共産主義者またはその同調者で、官庁、公団、公共企業体等の機密を漏洩し、業務の正常な運営を阻害するなどその秩序を乱しまたは乱す虞があると認められるものは、これらの機関から排除する。〈2〉排除の方法は、国公法七八条三号の規定による。」等を決定し、さらに、同月一二日の閣議において、「政府は、民主的政府の機構を破壊から防衛する目的をもつて、危険分子を国家機関その他公の機関から排除するために、共産主義者またはその同調者たる公務員で公務上の機密を漏洩し、公務の正常な運営を阻害するなど秩序を乱しまたは乱す虞があると認められるものを、国公法その他当該法規の規定に基づき、公職に必要な適格性を欠くものとして、その地位から除去する。」旨の了解がなされた。

二  ところで、連合国最高指令官の前記指示は、当時においては、法規としての効力を有するとともに、わが国の国家機関及び国民に対し最終的権威をもち、憲法を含む日本の法令は右指示と抵触する限りにおいてその適用を排除されていたものであり(最高裁判所昭和二六年(ク)第一一四号昭和二七年四月二日大法廷決定・民集六巻四号三八七頁、同昭和二九年(ク)第二二三号昭和三五年四月一八日大法廷決定参照)、また、わが国としては、連合国最高指令官の右指示がポツダム宣言に違反するかどうかを審査判断する立場にもなく(最高裁判所昭和三六年(オ)第五二三号昭和四〇年九月八日大法廷判決・民集一九巻六号一四五四頁参照)、かつ、民事上の法律行為の効力は、特別の規定のない限り、行為当時の法令に照らして判断すべきものである。したがつて、右連合国最高指令官の指示及びその実行が、憲法違反やポツダム宣言違反の問題を生ずるものではない。

三  前記連合国最高指令官の指示は、報道機関及びその他の重要産業から共産党員及びその支持者をすべて排除すべきことを要請したものであり、それらの者のうち、官庁等の機密を漏洩し業務の正常な運営を阻害するなどその秩序を乱しまたは乱す虞のある者のみを排除すべく裁量の余地を与えたものとは解されず、右指示の実施に関して決定された前記閣議決定等も、共産党員及びその同調者を包括的に排除の対象としたものと解すべきである(最高裁判所昭和四九年(行ツ)第六〇号昭和五〇年三月二八日判決・訟務月報二一巻五号一〇八三頁参照)。そして、右指示の重要産業に郵政省及び電気通信省が含まれることは、右各省の営む事業内容に照らし明らかである。

そうすると、原告らが本件免職処分当時共産党員であつたことにつき当事者間に争いがないから、原告らに対する本件各免職処分は、その余の点につき判断するまでもなく有効というべきである。したがつて、原告らの本訴請求は理由がない。

第四  結論

よつて、原告らの本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 辻忠雄 湯地紘一郎 林田宗一)

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